かわいらしいキャラクターで描かれているアニメ映画、『ペリリュー 楽園のゲルニカ』。
「戦争映画」だから、「気持ちが沈むのではないか」と劇場へ足を運ぶのを迷っている方も多いのではないでしょうか。
この記事では、本作のあらすじや見どころをネタバレなしで紹介しています。
結論から言うと、「今、この映画を映画館で見ることができてよかった」と心から思える作品でした。
「 かわいらしい絵」で「戦争」が描かれるからこそ、伝わるものがある。
この記事が、観に行こうか迷っている方の背中を押すことができたら嬉しいです!
映画『ペリリュー 楽園のゲルニカ』|公開日・キャスト・制作陣
『ペリリュー 楽園のゲルニカ』(2025年12月5日公開/日本)
原作:武田一義『ペリリュー 楽園のゲルニカ』(白泉社・ヤングアニマルコミックス)
監督:久慈悟郎
脚本:西村ジュンジ・武田一義
音楽:川井憲次
主題歌:上白石萌音「奇跡のようなこと」
キャスト(声の出演):板垣李光人、中村倫也、天野宏郷、藤井雄太、茂木たかまさ、三上瑛士、ほか
上映時間:106分
制作:シンエイ動画×冨嶽
配給:東映
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『ペリリュー 楽園のゲルニカ』あらすじ|楽園のような島で始まった持久戦
太平洋戦争末期、昭和19年(西暦1944年)。
南方のペリリュー島に配属された日本軍の兵士・田丸(声:板垣李光人)は、緑豊かで珊瑚礁に囲まれている美しい島・ペリリューを「楽園のようだ」と感じていた。
戦争が終わり日本に帰ったら、この風景を活かした冒険活劇漫画を描きたい。
そう夢見る田丸は、絵を描くことが好きな、ごく普通の21歳の若者だった。
「自分は生きて日本に帰ることができる」と根拠もなく思っていた田丸だったが、アメリカ軍との戦いにより、ほとんどの者がこの場所で死ぬだろうという予想を聞かされ、愕然とする。
そんな中、ついにアメリカ軍の攻撃が始まる。
人数・物量とも圧倒的に優勢なアメリカ軍に日本軍は追い詰められていくが、玉砕を禁じられた彼らは潜伏しゲリラ戦法をとることとなった。
激戦のさなか、同期ながら上等兵である吉敷(声:中村倫也)に助けられた田丸は、戦友として、仲間として彼と絆を深め、共に励まし合うようになっていく。
「生きて日本へ帰ろう」という約束を交わした2人は、いつ死ぬかわからない極限状況のなかで、持久戦を強いられていくのだが……
【ネタバレなし感想】ペリリュー島の戦いが描く「日常」と「死」
戦火の極限状況で交わされた「生きて帰ろう」という約束
田丸さんと吉敷さんの友情、絆、お互いを思い合う心。
戦争をしている、殺し合いをしている、という極限状況にあるからこそ、その感情は美しく尊いものに感じます。
「生きて日本に帰ろう」
その約束は2人の絆を強固にしますが、日本に帰るためには、激戦を生き抜くしかありません。
公式サイトや予告でも言及されていますが、この「ペリリュー島の戦い」での日本軍の生存者は34名だそうです。
1万人のうちの、34人。
映画『ペリリュー 楽園のゲルニカ』、そして原作の漫画(同タイトル)は、「ペリリュー島の戦い」という史実を元にしたフィクションですが、「34名の生存者」という点は同じです。
生存率の低さが物語る、「34人」という絶望と奇跡
生存者「34人」というのは、非常に絶望的な数字ですよね。
一瞬で何人もの仲間が(敵も)死んでいく様を見ていると、「34人」が生き残ったこと自体が奇跡ではないかと感じます。
誰も死にたくなんてなかった。
だけど「戦争」は、容赦無く命を奪っていく。
自分のすぐ脇に「死」という目に見えない落とし穴がぽっかりと空いていて、いつ落ちるかわからないのです。
1万人の兵士のうち、34人しか生存できなかった。
戦いがどれほど熾烈なものだったかが、この事実からもわかります。
でも、「熾烈な戦い」が、実際にどんなものだったのかを、ちゃんと想像できる人はいないと思います。
勇猛果敢に戦った?
圧倒的な兵器の物量の前に、なすすべもなく倒れていった?
この映画を見ると、「戦争で死ぬということ」が、一言では表現できないものであるということがわかります。
戦後80年の今だからこそ、若者たちの「生きた証」を目撃してほしい
さっきまで隣で笑っていた人が、次の瞬間には物言わぬ状態で転がっている。
勇敢に戦って死にたいと言っていた人が、予想もしない死に方をする。
楽園のように美しい島が、焦土と化していく。
田丸さんと吉敷さんは、共に21歳です。
現代の若者なら、大学生です。
いや、当時の日本でだって、学生か、もしくは学校を卒業したばかりの若者でしょう。
そんな若者たちが、遠く日本を離れた南方の島で、次々と死んでいく。
2025年は戦後80年です。
戦争の記憶を持っている人々は、少なくなりました。
この『ペリリュー 楽園のゲルニカ』は、「史実を元にしたフィクション」ですが、かつてペリリュー島の戦いでこういうことがあった、というのは、今の時代を生きる人たちに伝えていかなければならないと感じます。
戦後が遠くなったとはいえ、80年前の出来事です。
この悲惨な戦争から、まだ100年経っていないんです。
彼らが必死に生きようとした姿を、今の時代を生きる私たちが見届けることには、意味があると思います。
映画『ペリリュー 楽園のゲルニカ』の注目ポイント・見どころ
かわいらしい絵柄だからこそ際立つ、戦争のリアリティ
かわいらしい絵柄で物語が描かれるので、感情移入がしやすいです。
しかし、かわいらしい絵柄だからこそ、容赦無い戦争描写とのギャップがすごいんです。
ただでさえ悲惨な戦争が、さらに惨くて酷いものに感じます。
こんなことで死ぬの?
こんな簡単に死ぬの?
この「死」に、なんの意味があったの?
戦争の悲惨さを伝えるという意味でも、この「かわいらしい絵柄」は効果的だと思います。
戦争の悲惨さ、無意味さを実感できる
田丸さん、吉敷さんをはじめとして、彼らの周辺にいる「同期」の兵士たちは、みんな若いです。
こんなに若くて、将来に夢も希望も持っていた人たちが、故郷を遠く離れた場所に連れてこられて、戦わされている
こんな酷いことがあるのか、こんなことがあっていいのか、と感じます。
「戦争」と聞いても、それがどんなものかは、現代の私たちにはうまく想像ができません。
この作品を見ることで、「こういうことが実際にあったんだ」と、自分や周囲の人に寄せて考えることができるので、一見の価値があると思います。
主演キャスト(板垣李光人・中村倫也)の「声」の演技に没入できる
田丸さん役(声の出演)の板垣李光人さん、そして吉敷さん役の中村倫也さんの演技がとてもいいです。
板垣さんの声は、のんびりしていて優しい田丸さんそのものだし、中村さんの声はしっかりしていて頼りになる吉敷さんそのものです。
かわいらしい絵柄と、俳優の熱演がぴったりとはまって、懸命に生きようとした2人の姿をくっきりと浮かび上がらせています。
こうやって励まし合っていたんだろうな、助け合っていたんだろうな、お互いの存在が支えになっていたんだろうなというのが、「声」から伝わってくるのです。
アニメという「絵」に魂を吹き込む演技を、ぜひご覧になってください。
上白石萌音による主題歌「奇跡のようなこと」の優しさ
主題歌を歌う上白石萌音さんの声が、とても美しいです。
穏やかで優しく、それでいて力強い。
主題歌のタイトル「奇跡のようなこと」や歌詞に込められた思いが、しっかりと伝わってきます。
「奇跡のようなこと」の「奇跡」には、いろいろな意味が込められているんでしょうね。
1万人のうちの34名の生存者。
戦火の中で芽生えた友情。
日本に帰りたいという思い。
『ペリリュー 楽園のゲルニカ』を見ると、自分が今生きているということが、奇跡だと感じるかもしれません。
『ペリリュー』をより深く知るための関連作品・知識
映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』との共通点
映画『ペリリュー 楽園のゲルニカ』を見ていて、主人公の田丸さんはまるで漫画家の水木しげるさんみたいだな、と思いました。
水木しげるさんもまた、激戦地ラバウルで片腕を失いながらも生還したお一人です。
戦後の日本で漫画家となり、代表作の『ゲゲゲの鬼太郎』などを生み出した水木しげるさんは、ラバウル島を「楽園のようだ」と表現し、慰問でもらった鉛筆で島の風景をスケッチしたりしていました。
漫画家になりたいという夢を持ち、少しでも時間があれば手帳に絵を描いている田丸さんは、「もうひとりの水木しげる」だと思えてなりません。
水木しげるさんは戦争体験を漫画にしたり、ご家族に語ったりしていて、映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』にも、水木しげるさんの戦争体験をもとにしていると思われるエピソードが出てきます。
その描写も、この『ペリリュー 楽園のゲルニカ』と重なります。
『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』で描かれた戦争体験の描写の意味、それが何を表現していたのか知りたい。
と思うなら、『ペリリュー 楽園のゲルニカ』を見ると、解像度がさらに高くなると思います。
『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』が好きなら、『ペリリュー 楽園のゲルニカ』、おすすめです。
両作品とも、音楽を担当しているのが川井憲次さんであることも、非常に縁を感じます。
→映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』の紹介記事はこちら

タイトルの由来となったピカソの『ゲルニカ』と、実物を見た際に感じたこと
映画のタイトルに含まれている「ゲルニカ」は、パブロ・ピカソの代表作『ゲルニカ』(EL GUERNICA)に由来しています。
『ゲルニカ』は、ピカソの故郷スペインで1937年に起きた「ゲルニカ爆撃」への怒りと悲しみを込めて描かれた巨大な壁画です。
単なる絵画ではなく、「戦争の悲惨さ・恐怖を告発するシンボル」として、世界中で知られています。
つまり、タイトルにこの言葉が入っていること自体が、「これは戦争の悲劇を描く物語である」というメッセージになるのです。
『ゲルニカ』の実物は、スペインの首都マドリードにある「ソフィア王妃芸術センター」(Museo Nacional Reina Sofía)に展示されています。
以前、スペインを旅行した際に、私は現地で実物を鑑賞しました。
その際、ミュージアムショップで購入したキーホルダーがこちらです。
※現在も実際に使用しているため、欠けたり汚れたりしています。


※実際の絵画は著作権などの都合上ここには載せられませんが、このキーホルダーからも雰囲気を感じていただけるかと思います。
白と黒、そしてグレーのトーンだけで描かれた画面。
爆撃によって引き起こされた絶望、泣き叫ぶ人や動物の姿が、混沌とした構図で描かれています。
実物の『ゲルニカ』は縦3.5m、横7.8mという圧倒的なサイズです。
実際に見たとき、教科書や、こういった小さなグッズで見るのとは全く違う、「本物」が放つ「感情」が伝わってきました。
ただただ、『ゲルニカ』の前で立ち尽くし、呆然と眺めることしかできなかったことを覚えています。
映画『ペリリュー 楽園のゲルニカ』もまた、かわいらしい絵柄の中に、この『ゲルニカ』と同じような「戦争への怒りと悲しみ、やるせなさ」を秘めている作品となっています。
この映画を理解するのに、『ゲルニカ』の実物を見たことがあるというのは、非常に得難い経験だと思っています。
まとめ|『ペリリュー 楽園のゲルニカ』は今、映画館で見るべき一作
どんな時代でも、どんな状況でも、必死に生きようとすること。
みんな、将来の夢を持っていたこと。
戦争がなければ、その夢を叶えることができていたかもしれないこと。
この映画で語られているようなことが、実際にどこかで起こっていた。
それを忘れないようにしたいと思える作品です。
かわいらしいキャラクターたちが織りなす、あまりに切なく、悲惨で、けれど温かい友情の物語。
ぜひ劇場で、彼らの「生きた証」を見届けてください。

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