【映画紹介】『ミーツ・ザ・ワールド』|「好きを隠す」すべての人へ贈る愛の物語

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※この記事は、映画『ミーツ・ザ・ワールド』をこれから見る方へ向けた紹介&ちょこっと感想です。
予告や公式サイトでわかる程度の展開には触れていますが、映画の結末や重大な展開には触れていない、ネタバレなし感想になります。

どんな作品なのかを知りたい方は、ぜひご覧になってください。
この記事で、この映画に興味を持ってもらえたら嬉しいです。

「同じ世界に生きられない人を愛してしまった全ての人に、この物語が届きますように。」(原作者・金原ひとみさんのコメント/『ミーツ・ザ・ワールド』公式サイトより)

目次

映画『ミーツ・ザ・ワールド』|基本情報・スタッフ・キャスト

『ミーツ・ザ・ワールド』(2025年/日本)
原作:金原ひとみ『ミーツ・ザ・ワールド』(集英社刊)
監督:松居大悟
脚本:松居大悟・國吉咲貴
音楽・主題歌:クリープハイプ『だからなんだって話』
劇中アニメーション制作:UWAN Pictures
劇中アニメーションキャラクターデザイン:あおいれびん
キャスト:杉咲花、南琴奈、板垣李光人、渋川清彦、蒼井優、くるま(令和ロマン)、加藤千尋、和田光沙、安藤裕子、ほか
劇中アニメ『ミート・イズ・マイン』声の出演:村瀬歩、坂田将吾、阿座上洋平、田丸篤志
上映時間:126分
配給:クロックワークス

→上映館を知りたい方は、映画『ミーツ・ザ・ワールド』の公式サイトへどうぞ

『ミーツ・ザ・ワールド』のあらすじ|交わらない世界で生きる2人の出会い

擬人化焼肉漫画『ミート・イズ・マイン』に全力で愛を注いでいる由嘉里(杉咲花)は、いわゆるオタクであり、腐女子として生きてきていた。
27歳になった今も、仕事と趣味だけの生活をしているが、腐女子仲間が結婚や出産でオタ活から離脱していくことに、不安と焦りを感じ始める。

婚活を始めてみた由嘉里だったが、参加した合コンではうまく自分を出せずに酔いつぶれ、歌舞伎町で座り込んでしまう。

合コン参加メンバーに置いてきぼりにされ、ひとりでうずくまっていた由嘉里は、誰かに声をかけられ顔をあげる。
見上げた先には、由嘉里が理想とする美貌を持つ女性・ライ(南琴奈)がいた。
ライに助けられた由嘉里は、彼女に惹かれるものを感じ、ルームシェアを始めることになる。

ライを通じて知り合ったNo.1ホスト・アサヒ(板垣李光人)や、BARのマスター・オシン(渋川清彦)、毒舌作家のユキ(蒼井優)などと交流を深めていく中で、由嘉里はライが希死念慮を抱えていることを知る。
ライに生きていてほしい由嘉里は、ライの「死にたい気持ち」を消すことはできないのかと考えるようになるが……

『ミーツ・ザ・ワールド』の感想|生きづらさを抱えるすべての人へ贈る物語

『ミーツ・ザ・ワールド』の予告を見たとき、最初はこう思いました。

「オタク女子が、住む世界の違うキラキラ女子と出会って、垢抜けていく系の話なのかな?」

たとえばメイクを教えてもらうとか、服装をがらっと変えてみるとか。
それで男性にモテるようになったりとか、そういう系統の話なのかな、と。
でも、予告を最後まで見ると、そうじゃなさそうだ、と感じました。

「違う世界に生きている人と出会うことで、自分の見ている世界の見え方が変わる話」かな、と思ったのです。
それで興味を持って見に行ったのですが、見に行ってよかったです。

生きるのは大変で、辛いことも悲しいこともたくさんあって、でも楽しいことも幸せなこともたくさんある。
いろいろな思いを抱えている人たちが、出会ったり別れたり、ただすれ違うだけで関わり合うことがなかったりしながら、日々を生きている。

その刹那に、自分にとってキラキラと輝くものを目にしたり、手にしたりすることがある。
そういうものに出会ったとき、人は何を考え、どう行動するのか?
その先には、何があるのか?

映画『ミーツ・ザ・ワールド』は、由嘉里がライと出会った「刹那」の物語を通して、それを垣間見ることができる、とても優しくて切ない作品だと思いました。

仮面をかぶる日常:なぜ由嘉里は自分の「好き」を隠しているのか

由嘉里は自分が「『ミート・イズ・マイン』という擬人化焼肉漫画の原作やアニメが好きで、登場人物が恋愛関係にあると妄想して楽しむ腐女子」であることを、周囲に隠しながら生きています。

腐女子仲間の前では「自分」を出せますが、それ以外の人の前では、由嘉里が考える「普通の人々」の仮面をかぶっています。
つまり由嘉里は、周囲の人々の前では、「自分」を偽っているんですね。

なぜ偽るのかというと、自分の趣味嗜好が、「普通の人々」いわゆる「一般人」には、理解され難いものである、と考えているからです。

ただ理解されないというだけでなく、馬鹿にされたり、笑われたりするのではないか、と思っているんでしょうね。
そもそも、馬鹿にされたり笑われたりということがなくても、「理解されない」、つまり「引かれる」ことは、辛いですよね。

「自分の好きなこと」「自分が全身全霊をかけて愛していること」に対して、そのような反応をされたら、誰でもショックを受けると思います。
ショックを受ける=傷つく、ということなので、由嘉里は自分の「好き」を否定されることで、傷つくのが嫌なのです。

偽りの人生からの一歩:ライとの出会いがもたらしたもの

傷つきたくないから、「好き」を隠す。
「好き」を隠しているから、自分のありのままの気持ちや姿を見せられない。

自分を偽っているので、周囲の人々との関わりは上っ面だけのものになり、誰とも親交を深めることができない。
誰とも親しくならないから、傷つくことはないんだけど、自分の「好き」も本心も口に出せないまま、「偽りの人生」を生きていくことになってしまう。

その袋小路にはまりかけ、そこから抜け出そうと、由嘉里は婚活を始めます。
だけどその婚活は、「偽っている自分」のままでやろうとしていました。

そんなとき、由嘉里は出会ったのです。
自分に希死念慮があることを、なんでもないことのようにさらりと話す、自分を偽ることなく生きているライに。

他者を知り、自分を知る:そして由嘉里は「世界と出会う」

ライと出会ったことで、由嘉里は今まで知らなかった世界に触れることになります。
そうして他者を知ることで、「自分」のことも知っていくことになるのです。

自分を偽らず、自然体に生きているライ。
No.1ホストのアサヒや、毒舌作家のユキ、彼らが集まるBARのマスターであるオシンなど、ライの周囲の人々もまた、由嘉里の「普通」とはかけ離れた場所で生きています。

自分を偽って過ごしている普段の生活に窮屈さを感じている由嘉里には、彼らは自然体で自由に生きているように見えますが、彼らもまた、それぞれの「好き」や「生きづらさ」を抱えていることもわかっていきます。

腐女子として過ごしているときの由嘉里は、今を全力で楽しんで生きています。
その姿を隠して、「偽りの人生」を過ごしているときの由嘉里は、まったく楽しそうではありません。

そんな由嘉里が、変わったり変わらなかったりする映画『ミーツ・ザ・ワールド』は、なんらかの生きづらさを抱えているすべての人に、見てほしい作品です。

見どころを深掘り|異色のコラボレーションが織りなす「ワールド」

南琴奈が演じる、危うくも美しい「ライ」の魅力

主人公である由嘉里を演じる杉咲花さんの繊細な演技はもちろんのこと、由嘉里の人生に大きな影響を与えるキーパーソン・ライ役の南琴奈さんにも注目です。

オーディションによってライ役に選ばれた南琴奈さんは、モデル・女優として注目を集めている存在です。
希死念慮を抱えながらも、自由さと危うい魅力を放つライを等身大に演じています。

由嘉里が惹きつけられる「異世界」の象徴として、彼女の佇まいや表情の変化は、この物語の切なさを際立たせています。

音楽・主題歌を担当するクリープハイプが奏でる世界

この映画の主題歌『だからなんだって話』、そして劇伴音楽を担当しているのは、クリープハイプです。

実写映画での劇伴制作は、実は今回が初めてです。
たくさんの出会いを通じて新しい世界が広がっていくさまを、初めてとは思えないほど、繊細かつエモーショナルに表現しています。

不安や希望、焦りや期待など、いろいろな感情がスクリーンから音楽として聴こえてくるのを、体感してみてください。

劇中アニメ『ミート・イズ・マイン』は本格的! 豪華スタッフ&声優陣

由嘉里が夢中な擬人化焼肉漫画『ミート・イズ・マイン』が、劇中アニメとして、しっかりと制作されている点も見どころです。

劇中アニメーションの制作には、UWAN Pictures、キャラクターデザインには、「あおいれびん」さんといった、このジャンルに精通したスタッフが本気で関わっています。
さらに、主要キャラクターの声優には、村瀬歩さん、坂田将吾さんなど、豪華キャストが名を連ねているのです。

由嘉里が愛してやまない「推しの世界」が、本格的に、そして魅力的に描かれているからこそ、彼女の「好き」の気持ちが説得力を持って伝わってきます。

ぜひ由嘉里と一緒に、その熱い擬人化ワールドに触れてみてください。

豆知識|主人公が愛する「擬人化・腐女子」ワールド解説

由嘉里にとって、ライたちが生きる歌舞伎町の世界は、今まで自分が生きてきた世界とはまったく違うワンダーランドです。
それと同じことが、ライたち歌舞伎町の住人にも言えます。
由嘉里が生きている「腐女子」の世界は、彼らにとってはワンダーランドなんです。

そのワンダーランドを象徴する「擬人化(漫画)」や「腐女子」などの意味がよくわからない方に向けて、簡単に説明します。

コラム①擬人化(漫画・アニメ・ゲーム)とは?

由嘉里が夢中になっているアニメ『ミート・イズ・マイン』は、擬人化漫画『ミート・イズ・マイン』をアニメ化したものです。

この「擬人化」というのは、本来は人間ではないもの、例えば「国」「刀剣」「競走馬」などを魅力的なキャラクターとして描くことを指しています。
※有名な作品として、国の擬人化『ヘタリア』や、刀剣の擬人化『刀剣乱舞』、競走馬の擬人化『ウマ娘(むすめ)』などがあります。

由嘉里の大好きな『ミート・イズ・マイン』は、焼肉の部位である「カルビ」や「タン」などが、それぞれ個性豊かな男性キャラクターとして描かれている作品になります。

それだけなら、単にイケメンキャラクターに焼肉の名前がついているだけなんじゃないか、と思うかもしれません。
しかし擬人化作品は、その本来のモノ(国・刀剣など)が元々持っている関係性などが色濃く反映されるので、モチーフに詳しければ詳しいほど、作品の面白さがわかるようになります。

また、現実のモノ、『ミート・イズ・マイン』で言えば焼肉ですね、焼肉を目の前にしたときに、擬人化されたイケメンたちの熱いドラマを想起することができるのです。

つまり擬人化作品は、擬人化されたキャラクターたちの関係性を楽しむだけではなく、本来のモノを目にしたときにも想像の翼を羽ばたかせて楽しむことができるという、「一粒で二度おいしい」ものなんです。

コラム②腐女子とは?

漫画やアニメの男性キャラクターたちの間で描かれる関係性(熱い友情や強い憎悪など)に、「恋愛感情」を見出す女性を指します。
男性キャラクターたちを見て、「この2人がもし恋愛関係だったら」と想像したり、「こんなに強い感情(友情や憎悪)は、恋愛感情に違いない」と妄想したりして、その関係性や、そこから生まれるドラマを楽しみます。

一般的に女性を指す「婦女子」という言葉をもじり、「世間的に理解されにくい趣味を持つ“腐っている”女子」と、本人たちが自虐的に使い始めたのが語源とされています。

オタクやオタ活という言葉が世間に知られていくにつれ、腐女子という表現も知られていっているようです。
この映画でも、「腐女子です」という発言に、「あー(聞いたことある)」のような反応が描かれています。

『ミーツ・ザ・ワールド』まとめ|原作者の言葉に込められた、普遍的な「愛」

「擬人化漫画に夢中な腐女子」が主人公というと、特殊な内容なのかなと思ってしまいそうですが、この映画は非常に普遍的なテーマを扱っている作品です。

公式サイトに掲載されている、原作者・金原ひとみさんのこの言葉に、この作品のすべてが詰まっている気がします。

「同じ世界に生きられない人を愛してしまった全ての人に、この物語が届きますように。」

この「同じ世界に生きられない人」というのは、人間だけが対象ではないと思います。

漫画やアニメ・ゲーム・ドラマ・映画などの、フィクションの登場人物。
ぬいぐるみや人形。
犬や猫などのペット。
何らかの理由で、今はもうこの世界にいない人たち。

「同じ世界に生きられない」は、「違う世界で生きている」「生きている時間(長さ)が違う」「生と死という、決して交わらない世界に分け隔てられている」「何らかの理由で、会うことができない」ということなんだろうなと思います。

そういう存在を、ずっと愛し続ける。
思い続ける。

それは他の人には辛く悲しい姿に見えるかもしれないけれど、本人は幸福なのかもしれません。
自分が生きている限り、その存在を忘れない限り、その愛は永遠なのだから。

何かすごく好きなものがある、好きな人がいる、会えない(触れられない)けれど今も大好き。

そういう気持ちや感情に覚えのある方は、それをそっと肯定してくれる映画『ミーツ・ザ・ワールド』を、ぜひご覧になってください。

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